2004年 07月 10日
第6回 トラバでボケましょう選手権 に参加したとき、話を2つ考えつきました。 結局、 こちらの話で応募したんですが、 書いたものはやっぱり皆さんに読んでいただきたく、授賞式も盛大に終わったことですし、もうひとつの話をトラックバックさせていただきます。 マグロ市中央魚市場には、大勢の人が集まり、かつてない喧騒に包まれていた。 見たこともない大きな生物が水揚げされたからである。 それは三角形をしているところから、一見、エイのようにも見えた。 「ずばり、これはエイでしょうね」 ダービッツ氏が言った。 「あんたなんでここにいるの」 知り合いの客が聞く。 「いやあ、最近 小型船舶の免許を取りましてね、漁師に転職したのですよ」 しかし、その魚の材質は、イカのようだった。 「ヌメッとした感触、無脊椎動物特有の構造、そしてなにより味がイカそのものじゃ」 「うわっ、博士、正体不明なものを切り取って焼いて食べないでくださいよ」 「食べてみねばペットフードの良し悪しは分からんものだ。君も一口どうかね」 「いえ、私は遠慮しておきます。それよりその七輪、どこから持ってきたんですか」 あくまで冷静なツッコミを忘れない助手であった。 しかし、そのエイのように見えるイカは真っ赤な色をしていた。 「乙女ちゃんでぃーっす。面倒くさいっぽ。アカエイイカってことにしときんしゃい」 こうしてこの生物の和名はアカエイイカということに決まった。 マグロ市では、さっそく調査団が組織された。 団長は博士。 調査員として助手。 操船係はダービッツ氏。 オッドマンとして乙女ちゃん。 そして猿。 調査船(ダービッツ氏の小型船)は早朝ただちに出航した。 なぜこんなに小規模なのかというと、こんなときのために用意されていたはずのマグロ市の補正予算が、 『使途不明金(花火代として)』という領収書とともに大幅に消え去っていたからである。 調査船は、丸1日かけて問題の海域に着いた。 助手「博士、夜になってしまいましたね。調査は明日からにしますか」 博士「ばかもん。イカは夜行性なのじゃ。しかも集光性がある。ただちに探照灯を点けるのじゃ」 ダービッツ「探照灯なんてありませんよ。ただの漁船なんですから」 そのころ、乙女ちゃんは舷側で嘔吐していた。 乙女「吐いてる理由? 決まってるっしょ。紫外線よけに頭グルグルしてたらこうなったっちょ」 「生物層とは、グルグル回る輪廻の輪のようなものだ」 と猿。 そのとき、海が赤く光り始めた。と同時に、捕獲され、船倉に保管されているアカエイイカも光りだした。 博士「このまま進むのだ。宇宙は人類に残された最後のフロンティア」 助手「ここ海なんですけど」 ダービッツ「ワープエンジンなんてありませんよ。ただの漁船なんですから」 乙女は赤い光に酔いしれた藤原紀香のように踊り狂っていた。 「人生はダンスを踊り続けているようなもの。踊りをやめる時、人生も終わるのだ」 と猿。 海面の光はますます強くなり、あたりは真っ赤に染まった。 よく見ると、波間から赤い三角の物体が多数突き出している。 助手「博士、アカエイイカです。アカエイイカの大群ですよ!」 博士「見て分からぬ者は聞いても分からん」 ダービッツ「博士、分からないんですか」 乙女「ムヒーッ、もうサイコーキネシス テレパシー 超能力をー使うときー」 「思わぬときに門外漢が役に立つ。そのためのオッドマン」 と猿。 乙女「来たわよ来たわよ。アカエイイカを2枚におろすんだぎゃあ」 博士「なんと、乙女君はアカエイイカからのテレパシーを受信しているのかね?」 ダービッツ氏が素早く船倉に下りると、包丁を取り出してアカエイイカを薄く2枚に開いた。 アカエイイカの体内は真っ白く、内臓も骨格もなかった。ただあったのは、 『当たり 一等』 の文字だけ。 乙女「おめでとうっちゃ。賞品は、銀河一周鉄道の旅じゃけん」 「これで若き日に分かれたカムパネルラに会えるかもしれない」 と猿。 漂流しているダービッツ氏の船が発見されたのは、それから1週間後のことだった。 発見者の「豪腕のマリー」の名で呼ばれるベテラン女漁師によると、船内には誰もいなかったという。 アカエイイカの残骸は、マリーさんが捨ててしまったとのことで、研究者たちをおおいに落胆させた。 彼女いわく、「だって、あんまり臭かったんですもの。」 それ以来、この謎の事件は、『マリーそれ捨て豪』事件として広く世間に知れ渡ることになったのだった。
by himaohimao
| 2004-07-10 22:56
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ひまおです。
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