2004年 07月 17日
宇宙を舞台にした映画やアニメでは、登場人物が宇宙服を着てすぐエアロックから宇宙空間へ飛び出していくシーンがありますね。 あんなことをすれば、人間はすぐに死んでしまいます。 それを防ぐために、実際の宇宙飛行士は、船外活動前に、半日から1日以上かけて、「減圧」という大変な作業を行います。 今日はそれについてお話ししようと思います。 スペースシャトルを例にとれば、船内の気圧は1気圧です。(貨物室を除く) 外の宇宙空間は、もちろん0気圧です。 1気圧のところから0気圧のところに出れば、酸欠はもちろんですが、血液中の窒素が沸騰して、 血管が詰まって、人間は死んでしまいます。潜水病と同じことですね。 では、宇宙服の中を1気圧にすればいい。 ところが、服というものは、圧力がかかればかかるほど、破れやすくなりますよね。 そのうえ、服が内圧でパンパンに張ってしまって、関節がほとんど曲がらなくなるなど、 極度に動きにくくなっちゃいます。 そこで現在では、以下のような手順で減圧を行っています。 1.純酸素を吸って血液内の窒素を追い出します。(約1時間) 2.スペースシャトル内部の気圧を0.7気圧まで下げます。(12~24時間) 3.船外活動予定者は、人に手伝ってもらって船外活動用宇宙服を着ます。 これは、今のところ、宇宙服が1人で着れる作りにできないためです。 宇宙服のチェックも入れて、約1時間かかります。 4.宇宙服に純酸素を満たし、血液中の窒素を追い出します。(約1時間) 4.そしてエアロックに入ります。 ここで0.3気圧まで減圧します。(5分程度) 以上が終わればエアロックの空気を抜いて、0気圧の宇宙空間に出て行けるわけです。 全部で15~27時間強の行程です。 このことに触れた映画やアニメや小説は少ない。 たまに「減圧剤」なる薬が出てきて、それを飲めば減圧作業は不要、という設定のものもありますが、 「減圧剤」が体のどこにどう作用するのかまったく説明がありません。 例外的に、『プラネテス』というアニメでは、1気圧宇宙服というのが登場しています。 これは文字通り宇宙服の中が1気圧なので、服さえ着れば、すぐに宇宙に出て行けます。 前述の、服が破れやすくなる現象は、服の外側を強化素材でガッチリかためることで対応しています。 服が膨れ上がる問題も、これで解決です。 これからは、せめて近未来SFだけでも、この問題に触れて欲しいと思います。 というのは、先月、宇宙でこんなトラブルがあったからです。 このとき、僕は 「うわ、減圧に半日から1日もかけたのに、宇宙に2分しか出られなかったのか。かわいそう!」 と思いました。 ところがニュースキャスターも、テレビを見ていた周りの人も、 「ふーん、残念ね」 といった とおりいっぺんの反応で、まるで「着替える手間が大変そう」くらいにしか感じていないように見えました。 このあと友人たちに聞いてまわったんですが、ちょっとSFに造詣がある人でも、同じ反応でした。 これじゃあ宇宙飛行士たちが浮かばれない。 船内に戻ったあとも、今度は加圧の工程が待っているというのに。 人類のパイオニアがかわいそうだ。 そう思って、この1文を書くことにした次第です。 (本文中に間違い等あればご指摘ください。ただちに書き直します。)
by himaohimao
| 2004-07-17 04:50
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