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2004年 08月 08日

天使のような奥様

第10回 トラボケ 参加作品


旦那は今夜も帰りが遅くなるらしい。
携帯に一言メール、
「古本屋に寄って帰る」
ってあったから。
趣味の郷土史研究もいいけど、あたしたち新婚なんだからね。
いいかげんにしてほしいわ。

特にこの新築の家を建てて引っ越して来てからというもの、夜は書斎にこもりっきりで、
古ぼけた本とにらめっこしてばかり。
呼びかけても
「ちょっと待ってくれよ。僕らを守る大事な研究をしているんだ」
の一点張り。守るってなによぉ。

旦那が留守のときに こっそり部屋に入って 本を開いてみたことあるんだけど、
紙魚っていうの? なんか小さなキモい蟲みたいのが見えたんで、
急いで閉じて、すぐ出てきちゃった。
それ以来、あの部屋に足を踏み入れたことはない。


で、ベッドでふて寝していたら、家がミシミシッときしむ音がした。
ま~たあいつらだ。
窓から外を覗くと、やっぱりいた。
30cmくらいの小鬼が数匹づつ 家の柱に取り付いて、一生懸命ゆすってる。
冗談じゃないわよ。毎日毎日やって来て。
新婚早々無理して買った家を壊されてたまるもんですか。
ローンだってあと30年も残ってるのよ!

前に旦那に相談したときも、
「それは家鳴りっていう日本古来の妖怪だよ。それ以上の悪さはしないから放っておきなさい」
なんて言うばかり。
こうなりゃあたしがなんとかするしかないわ。

布団叩きを片手にテラスに飛び出す。
手近な小鬼からパンパン叩いて追い出してまわる。
こいつら弱っちいし、いつものことだから、怖くともなんともない。
ただウザいだけ。
だって、ただ逃げ回るだけで、やっつけられないんだもん。

いつもはこれで終わりにしてやるんだけど、今日は違うぞ。
こっちには援軍がついたんだ。


昨日、裏庭でボーッと洗濯物を干していたら、急に空が曇って、雷まで鳴り出したのね。
アチャー、洗濯物乾かないやって思ってたら、空から白鳥みたいな羽根のはえた女の人達が
降りてきて、話しかけてきたの。
白人見たのは初めてってわけじゃなかったけど、あんな美人が集団で来ると驚くわよ。
目は青っていうより空色、髪はプラチナブロンドってやつ?
おまけに輝く銀のヨロイを着て、長い槍まで持ってんのよ。カッチョイー。

あたしの目をじっと見つめて
「私たちは悪い悪魔を退治するために旅を続けています」
なんつって。
「怪しいやつを見かけたら、この笛を吹いてください。すぐに駆けつけますから」
って、石でできた小さな笛をもらっちゃった。丸いオカリナみたいな感じかな。
かわいいから、穴に紐を通して首にかけてるんだ。


で、今こそ それを使うときでしょう。
笛を取り出し、それらしい穴に唇を当てて思いっきり息を吹き込む。
あれ? なんかスカスカした小さな音しか出ないな。

と思ったら、どこからともなくオォォォンって苦しむような声がして、急に地面が揺れ出した。
いや、揺れるっていうより波打つ感じ。
もう立ってられないって思ったとき、身体が浮いた。

見ると昨日の あの人達が両脇を支えてくれて、あたしは空に浮かんでいた。
「すごいすごい、空飛んでる~」
「今はそれどころじゃありません。あれを見てください」
指差す方を見ると、ぎゃっ、あたしの家が黒い顔になってるじゃない。

もっと正確に言うと、あたしん家のご近所一帯が黒い霧に包まれてて、
その霧が全体で大きな顔になってんのね。
まるで巨人が地面から顔をのぞかせてるみたい。

「あれは悪魔の手下です。退治しましょう」

気がつくと、あたしにも白い羽根がはえていた。
新築ローン30年のあたしたちの家を壊されてたまるもんですか。
行くわよ~。


「待った!」
あれ? 横から誰かが割って入ってきた。
見るとカラスのような黒い羽根をはやした男の人。
顔は… うわぁ、ウチの旦那にクリソツでやんの。
てか、旦那じゃないの! あなた、そこで何やってんのよ。

「あれが悪魔です!」
援軍の人たちが叫ぶ。

悪魔? ならもうちょっと怖そうな顔してるんじゃない?
それとも すんごい美形とか。
それが旦那ってどうよ。
凄味がないったらありゃしない。
はっきり言って、負ける気がしない。

「んじゃあ あなた、いくわよー!」
布団叩きをかまえると、旦那はあわてたように
「待った待った。俺は悪魔なんかじゃない。
 このあたり一帯には、古来土地神様が憑いていてだなぁ、
 代々この土地を守っていてくださったんだ。
 それにお前に取り憑いているのはワルキューレという北欧の死神の一種だぞ。
 最近では、落ち着く場所を求めてさまよってるって噂だ。」

コライトチガミサマってなによー。漢字いっぱい使われたって わかんないわよぅ。
援軍さんたちも
「だまされてはいけません。あれは悪魔と その手下です」
って言ってるしー。

「まてまて、この古文書にだな」
いやーん、旦那ってば、カビ臭い本を開いて なにやら言ってるんだけど、
その本から例の蟲がボタボタこぼれ落ちてるの。
それも10cmくらいの大きさのヤツが。

それに待て待てってうるさいわね。
あたしが何か頼むたびに いつもいつも「ちょっと待って」って本に夢中で。
そんなにあたしの言うことが聞きたくないの。
そう、そんならいいわよ。あたしだって、あたしだってねぇ…

なんかだんだんハラ立ってきた。ええいやっちゃえ!
布団叩きをかかげて急降下。旦那をビシバシ叩いちゃう。

「うわっ、ちょっと待って、待っ」

かまうもんですか。えい、やあ!

「うわ、痛っ、ちょ、マジ痛っ、うわー」

あはは、旦那ってば、空から落ちちゃってんの。
って、このまま落ちるとあたしん家に落下しちゃうじゃない。
冗談じゃないわ。
あんな蟲を持ち込まれて、大繁殖でもしちゃったらどうしてくれるのよ。

あたしも急降下。ズサー。庭にみごとに着地。
黒い顔の形をした霧のなかに入っちゃったことになるけど、あたしたちの家を守るためだもん、
そんなこと言ってられないよね。
それに霧の中って、ほんわか暖かくてなんだか気持ちいい。

先に落ちてた旦那は、どこか打ったらしく、しゃがみこんで うーうー唸っている。

空から声が響いてきた。
「今がチャンスです。悪魔を打ち滅ぼすのです」

そんなこと言われてもねぇ。相手は旦那だし、動けそうにないし、庭だから蟲も大丈夫だろうし。

「ならば笛を吹きなさい。その音色には悪魔の手下を弱らせる効果があるのです」

あーもううるさいわねぇ。あたしに命令するんじゃないわよ。
旦那にもそんな口きかせたことないんだからね。

あたしが美女軍団と睨み合っていると、その間に旦那が回復したらしく、
古本を開いてなにやら唱えはじめた。

「オンムラクモツチヒメノコニシテワガソタケルノミコトニカシコミカシコミオンネガイタテマツ……」

えーいあなたもウザいわね。布団叩きでひっぱたく。
なにが「あ痛」よ。
庭に座り込んで わけわかんない本 声に出して読んでるんじゃないわよ。


そんなことを繰り返しているうちに、美女軍団の方がラチがあかないと判断したらしく、
空のかなたへ帰っていっちゃった。

すると霧も地面にしみこむように消えていって、なんだかスーッと気分もよくなって……



目が覚めた。寝室に、朝の光が差し込み始めている。
もう一度寝るか。
いつのまにか隣で寝ていた旦那がうなされて寝言を言っている。

「俺たちの… ローンが… 守らなくちゃ…」

ちょっと、どうしたの。
軽く揺さぶると、旦那はガバッと起き上がってこう言った。

「うわあぁっ! いやぁ、いまのは怖かった・・・」

「どうしたのよ。いったい何が怖かったの」

「うわっ、もうぶたないでくれ!」

「失礼ねぇ。なに寝ぼけてんのよ」

旦那はボーゼンとした顔で あたしをしばらく見つめたあと、真顔に戻ってポツリと
「いや、なんでもない」
とだけ言った。

ホント、人騒がせなんだから。
でもやっぱりあなたが好き☆
キスしてあげると、むこうもあたしに覆いかぶさってきた。


ちょっとあなた、なに見てんのよ。
あなた、あなたのことよ。ここからはオフレコよ。
カーテン閉めるからね。じゃあね。

シャッ

(暗転。おしまい)



■□■□■□■□■□【トラバでボケましょうテンプレ】■□■□■□■□■□
【ルール】
 お題の記事に対してトラバしてボケて下さい。
 審査は1つのお題に対し30トラバつく、もしくはお題投稿から48時間後に
 お題を出した人が独断で判断しチャンピオン(大賞)を決めます。
 (自分自身のお題の記事にトラバして発表)
 チャンピオンになった人は発表の記事にトラバして次のお題を投稿します。
 1つのお題に対しては1人1トラバ(1ネタ)とします。
 お題が変われば何度でも参加OKです。
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 企画終了条件は
 みんなが飽きるまで、もしくは企画者が終了宣言をした時です。

 参加条件は特にないのでじゃんじゃんトラバをしてボケまくって下さい。

 ※誰でも参加出来るようにこのテンプレを記事の最後にコピペして下さい。

 企画元 毎日が送りバント様 http://earll73.exblog.jp/
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萩尾望都の『あぶない丘の家』の 最初のエピソード「あぶないアズにいちゃん」を
モチーフにしました。

奥様、読んでおられるといいなぁ……

by himaohimao | 2004-08-08 07:27 | ショートショート


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